令和7年度第2回診療報酬調査専門組織入院・外来医療等の調査・評価分科会において、令和6年度診療報酬改定後の医療提供体制への影響に関する大規模調査の速報結果が報告されました。本調査は、全国の医療機関5,865施設を対象に実施され、回収率49.4%という高い回答率で、改定後の医療現場の実態を明らかにしています。今回の調査は、急性期医療から慢性期医療、外来医療に至るまで、医療提供体制全般にわたる7つの重要項目について詳細な分析を行っています。
調査結果から、令和6年度診療報酬改定が医療現場に与えた影響が徐々に明らかになりつつあります。急性期医療では重症度、医療・看護必要度1の見直しによる病床機能の適正化が進展しています。地域包括医療病棟の新設により、患者の状態に応じた柔軟な医療提供体制の構築が始まっています。外来医療では生活習慣病管理料の見直しやオンライン診療の普及など、新たな医療提供形態への対応が進んでいます。医療従事者の働き方改革についても、各医療機関での取り組み状況が調査対象となっています。
調査の概要と回収状況
令和6年度入院・外来医療等における実態調査は、診療報酬改定の影響を包括的に把握するため、A票からF票まで6種類の調査票を用いて実施されました。調査対象は5,865施設にのぼり、施設調査票、病棟調査票、治療室調査票、患者票、医療従事者票という多角的な調査設計により、医療現場の実態を立体的に把握することを目指しています。
回収率は全体で49.4%(2,896施設)と、前回調査(令和4年度:41.1%)を上回る高い水準となりました。特に急性期一般入院基本料等を算定する医療機関からは50.3%(1,156施設)、地域包括ケア病棟入院料等では51.5%(857施設)と、半数を超える医療機関から回答を得ています。外来調査についても914施設(回収率37.5%)から回答があり、オンライン調査では2,000人の一般市民から100%の回答を得ることができました。
調査負担軽減の観点から、診療実績データ(DPCデータ2)での代替提出を可能とするなど、医療機関の負担に配慮した調査設計が功を奏し、質の高いデータ収集が実現しています。医療従事者票では、医師票4,323件、病棟看護管理者票4,150件、薬剤部責任者票1,331件と、多職種からの意見を幅広く収集することができました。
共通項目:人生の最終段階における意思決定支援
すべての入院料に共通する調査項目として、人生の最終段階における意思決定支援の実施状況が調査されました。急性期から慢性期まで、各入院料における意思決定支援の実施率には大きな差があることが明らかになりました。
緩和ケア病棟では90%を超える高い実施率となっている一方、急性期一般入院料では約40%、地域包括ケア病棟では約50%の実施率にとどまっています。療養病棟では約60%と比較的高い実施率を示しており、長期療養患者への対応が進んでいることがうかがえます。他施設からの医療・ケアの方針についての情報提供は、全体的に20~30%程度にとどまっており、医療機関間の情報連携に課題があることが示されました。
急性期医療及び救急医療等に対する評価の見直しの影響
急性期一般入院料1における平均在院日数3の基準が18日から16日に短縮され、重症度、医療・看護必要度の該当患者基準も見直されました。この改定により、急性期病床の機能分化が促進され、より重症患者への医療資源の集約が進んでいます。
急性期一般入院料1を算定する518施設のうち、地域包括ケア病棟を併設している施設は22.0%、回復期リハビリテーション病棟を併設している施設は18.1%となっています。複数の病棟機能を組み合わせることで、患者の状態に応じた適切な病床への転棟が可能となり、効率的な医療提供体制の構築が進んでいます。救急医療管理加算についても、「その他の重症な状態」の割合が5割を超える医療機関への評価見直しが行われ、救急医療の適正化が図られています。
特定集中治療室管理料等の集中治療を行う入院料の見直しの影響
特定集中治療室管理料において、遠隔モニタリングによる支援体制の評価が新設されました。特定集中治療室遠隔支援加算(980点)により、専門医が不足する地域でも質の高い集中治療の提供が可能となっています。
この加算では、24時間体制で集中治療専門医による遠隔支援を受けることができ、特に夜間帯や休日における医療の質向上に寄与しています。支援側医療機関のICU患者の生体情報等を支援を受ける側のICUに共有し、データ転送装置を通じてリアルタイムでの診療支援が実現されています。特定集中治療室管理料1又は2に係る届出を行っている保険医療機関であることや、専門的な研修を受けた常勤医師が2名以上配置されていることなどが施設基準4として定められています。
地域包括医療病棟の新設の影響
令和6年度改定で新設された地域包括医療病棟入院料について、届出を行った24施設への調査結果が明らかになりました。これらの施設では、「他の入院料の病棟と組み合わせることで患者の状態に即した医療を提供できている」「経営が安定してきている」「実際の患者の状態により即した入院料等であると感じている」という肯定的な評価が上位を占めています。
地域包括医療病棟では、高齢者の急性疾患への対応、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的提供、在宅復帰支援などの機能が包括的に評価されています。ただし、リハビリテーション・栄養・口腔連携加算の算定率は11%にとどまっており、「休日のリハビリテーション料の提供単位数が平日の提供単位数の8割以上を満たさないため」「リハビリに習熟した常勤医師の確保が困難」「入棟後3日までに疾患別リハを算定された患者割合が8割に満たない」などの課題が報告されています。
地域包括ケア病棟及び回復期リハビリテーション病棟の実績要件等の見直しの影響
地域包括ケア病棟では、救急受入を行っている施設の割合が地域包括医療病棟入院料で92.4%、地域包括ケア病棟入院料1で73.5%と高い水準を示しています。在宅医療等の提供についても、地域包括医療病棟入院料で81.8%、地域包括ケア病棟入院料1で61.8%が実施しており、地域医療における重要な役割を果たしていることが確認されました。
地域包括ケア病棟における救急受入患者像として、「自院の通院歴・入院歴を有する患者」が87.0%、「他医療機関から自施設への紹介状を有する患者」が89.4%となっており、地域の医療機関との連携が進んでいます。回復期リハビリテーション病棟では、FIM(機能的自立度評価法)5による評価体系の導入により、リハビリテーションの質の標準化が進んでいます。各病棟とも地域の医療ニーズに応じた機能分化と連携強化が着実に進展していることが確認されました。
療養病棟入院基本料等の慢性期入院医療における評価の見直しの影響
療養病棟入院基本料では、医療区分とADL6区分による評価体系の見直しが行われました。令和6年度改定により、療養病棟入院料1を算定する施設では、疾患・状態に係る3つの医療区分と、処置等に係る3つの医療区分、さらに3つのADL区分に基づく27分類及び3モンに関する3分類の合計30分類の評価に見直されています。
具体的には、療養病棟入院料1において、入院料A(1,813点から1,964点へ)、入院料27(830点)、入院料30(新設:1,488点)などの新たな評価体系が導入されました。この見直しにより、患者の状態に応じたより適切な評価が可能となっています。障害者施設等入院基本料を算定する施設においても、重症心身障害者や神経難病患者への専門的な医療提供が継続的に行われています。
医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進
令和6年4月から医師の時間外労働上限規制が適用されたことを受け、医療従事者の負担軽減と働き方改革の推進に関する調査が実施されました。A票対象施設(急性期一般入院基本料等)、B票対象施設(地域包括ケア病棟入院料等)において、病院勤務医・看護職員の負担軽減に資する取組を要件とする項目の届出状況が調査されています。
医療従事者票の全体回収状況は、医師票4,323件、病棟看護管理者票4,150件、薬剤部責任者票1,331件となっており、多職種からの意見を幅広く収集しています。感染対策向上加算においては、介護保険施設等への助言業務が専従要件に含まれることが明確化され、月10時間以下という制限の下で、地域全体の感染対策強化と医療従事者の業務効率化の両立が図られています。
外来医療に係る評価等について
生活習慣病管理料の見直しにより、検査等を包括しない生活習慣病管理料(Ⅱ)(333点、月1回に限る)が新設されました。しかし、調査では73.2%の医療機関が「算定対象となる患者がいない、もしくは少ない」と回答しており、普及には課題が残っています。「療養計画書に記載する項目が多く、業務負担が大きいため」(14.4%)、「患者に対して説明を行う時間的負担が大きいため」(11.3%)も算定を妨げる要因となっています。
オンライン診療については、患者調査で3.5%(89人/2,540人)の受診経験率が確認されました。受診者のうち19.1%が居住地と異なる都道府県の医療機関を受診しており、地理的制約を超えた医療アクセスの改善に寄与していることが分かりました。医療機関側のシステム導入費用は初期費用の中央値が27.5万円、月額維持費用の中央値が1万円となっています。システム利用に係る患者からの費用徴収を行っている医療機関は29%で、徴収額の中央値は600円でした。
まとめ
令和6年度診療報酬改定は、医療機能の分化・連携の推進、医療の質向上、医療従事者の働き方改革という3つの大きな方向性を持って実施されました。今回の調査結果から、これらの改定が医療現場で着実に浸透し始めていることが確認されています。特に地域包括医療病棟の新設や、急性期医療の機能強化、オンライン診療の普及など、新たな医療提供体制の構築が進んでいます。一方で、生活習慣病管理料の普及や、リハビリテーション提供体制の充実、医療機関間の情報連携など、引き続き取り組むべき課題も明らかになりました。今後も継続的な調査により、改定の影響を詳細に分析し、次期診療報酬改定に向けた検討を進めていくことが重要です。
- 急性期入院医療の必要性を評価する指標。A項目(モニタリング及び処置等)、B項目(患者の状況等)、C項目(手術等の医学的状況)で構成。 ↩︎
- 診断群分類(Diagnosis Procedure Combination)に基づく入院医療費の包括評価制度で使用される診療実績データ。 ↩︎
- 病院・病棟における患者の平均的な入院期間。年間在院患者延数を(年間新入院患者数+年間退院患者数)の1/2で除して算出。 ↩︎
- 診療報酬を算定するために医療機関が満たすべき人員配置、設備、診療実績等の要件。 ↩︎
- 機能的自立度評価法。日常生活動作の介助量を評価する国際的な尺度で、18項目・126点満点で評価。 ↩︎
- 日常生活動作。食事、移動、排泄、入浴等の日常生活における基本的な動作のこと。 ↩︎
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