ポリファーマシー対策の実態調査:令和7年度調査が示す高齢者医療の課題

ポリファーマシーは、単に薬剤数が多いことではなく、多剤併用に関連して薬物有害事象1のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス2の低下等の問題につながる状態を指します。令和7年度に実施される入院・外来医療等の調査では、ポリファーマシー対策の実施状況が重点項目として評価され、その結果は令和8年度診療報酬改定の検討材料となります。本記事では、ポリファーマシーの定義から医療現場での対策まで、最新の調査内容と実態を包括的に解説します。

高齢化の進展により、複数の慢性疾患を抱える患者が増加し、75歳以上の高齢者の約4割が5種類以上の薬剤を服用している現状があります。6種類以上の薬剤使用で副作用発生リスクが有意に上昇するという研究結果もあり、医療現場では処方の適正化が急務となっています。令和7年度の調査では、医療機関におけるポリファーマシー対策の取り組み状況、職員体制、患者への影響などが詳細に調査される予定です。

目次

ポリファーマシーの定義と医学的背景

ポリファーマシーは「poly(複数)」と「pharmacy(調剤)」を組み合わせた造語で、多剤併用による有害事象リスクの増加を特徴とする病態です。重要なのは、薬剤数の多さ自体が問題ではなく、不適切な処方による健康被害のリスクが本質的な問題であることです。日本老年医学会のガイドラインでは、特に慎重な投与を要する薬物(PIMs:Potentially Inappropriate Medications)をリストアップし、高齢者への処方適正化を推進しています。

高齢者では加齢により肝臓や腎臓の機能が低下し、薬物の代謝・排泄能力が減退します。この生理的変化により、通常用量でも薬物血中濃度が上昇し、薬物有害事象が発生しやすくなります。薬剤起因性老年症候群として、ふらつき・転倒、認知機能低下、せん妄、食欲低下、排尿障害などが報告されており、これらは患者のQOL(生活の質)を著しく低下させる要因となっています。

複数の医療機関を受診する患者では、処方の重複や相互作用のリスクが高まります。また、薬物有害事象を新たな疾患と誤認し、さらなる薬剤を追加する「処方カスケード」も、ポリファーマシーを悪化させる重要な要因です。服薬アドヒアランスの低下も深刻で、薬剤数の増加に伴い服薬管理が困難となり、飲み忘れや飲み間違いが増加する悪循環に陥ります。

医療現場におけるポリファーマシー対策の実態

病院では、ポリファーマシー対策チームの設置や業務手順書の整備が進んでいます。入院時の持参薬評価では、薬剤師が中心となってPIMsのスクリーニングを実施し、処方見直しの提案を行います。多職種カンファレンスでは、医師、薬剤師、看護師が連携し、患者の状態に応じた処方の最適化を検討します。

地域医療機関との連携体制の構築も重要な取り組みです。退院時には、処方見直しの内容とその理由を診療情報提供書や薬剤管理サマリーに明記し、かかりつけ医や保険薬局に情報提供します。お薬手帳の活用促進により、患者の服薬情報の一元管理を図り、重複投薬や相互作用のチェック体制を強化しています。

令和7年度調査では、各医療機関における入退院支援の状況、介護保険施設との協力体制、ポリファーマシー対策の取り組み内容などが詳細に調査されます。特に、入院時食事療養費の見直しによる影響、医師事務作業補助体制加算の活用状況、外科系診療科の医師配置状況なども併せて調査され、医療提供体制の全体像を把握する内容となっています。

患者・家族が知るべきポリファーマシーの実際

患者側では、自身の服薬状況を正確に把握することが重要です。お薬手帳を一冊にまとめ、処方薬だけでなく市販薬やサプリメントも含めた全ての服用薬を医療者に伝える必要があります。かかりつけ医・かかりつけ薬局を持つことで、服薬情報の一元管理が可能となり、重複投薬や相互作用のリスクを低減できます。

服薬に関する不安や疑問は、遠慮なく医師や薬剤師に相談すべきです。「薬が多すぎる」と感じても、自己判断で中止や減量をすることは危険であり、離脱症状や原疾患の悪化を招く可能性があります。処方見直しは、医学的判断に基づいて段階的に行う必要があり、患者の理解と協力が不可欠です。

高齢者では、新しい症状が薬の副作用である可能性を常に考慮する必要があります。ふらつき、物忘れ、食欲不振などの症状が出現した場合、加齢による変化と決めつけず、服用薬との関連を疑い、医療者に相談することが重要です。家族も患者の服薬管理をサポートし、変化に気づいた際は速やかに医療機関に情報提供することが求められます。

令和7年度調査が明らかにする対策の現状

令和7年度の入院・外来医療等の調査では、ポリファーマシー対策の実施状況が多角的に評価されます。調査対象は約2,300の医療機関に及び、施設調査票、病棟調査票、外来調査票、患者調査票などを通じて、詳細なデータが収集されます。特に注目されるのは、処方見直しの対象となる患者のスクリーニング方法、多職種連携の実施状況、地域連携の取り組み内容です。

調査項目には、協力医療機関としての体制、入退院支援クラウドなどICTツールの活用状況、職員の負担軽減策なども含まれています。生活習慣病管理料の見直し後の状況、透析医療における災害対策、在宅医療提供施設での24時間電話代行サービスの利用状況など、現代の医療課題を反映した内容となっています。

医療資源の少ない地域における実態調査も実施され、へき地医療でのポリファーマシー対策の課題が明らかにされます。情報通信機器を用いた診療(D to P with N3)の活用状況や、他医療機関からの支援体制など、地域特性に応じた対策の必要性が検証される予定です。

今後の展望:適正な薬物療法の実現に向けて

ポリファーマシー対策は、高齢者の安全な薬物療法を実現するための重要な取り組みです。令和7年度調査の結果は、令和8年度診療報酬改定における制度設計の基礎データとなり、医療現場での対策をさらに推進する原動力となることが期待されています。調査結果を踏まえて、薬剤総合評価調整管理料や薬剤調整加算などの評価体系がより実効性のあるものに改善される可能性があります。

医療機関では多職種連携による処方見直しが進み、地域では情報共有体制の構築が進展しています。電子カルテシステムの活用により、対象患者の自動抽出やアラート機能の実装など、業務の効率化も進められています。患者・家族の理解と協力、医療者の専門的判断、そして制度的支援が一体となることで、真に必要な薬物療法の実現が可能となります。

  1. 薬剤の使用後に発現する有害な症状又は徴候であり、薬剤との因果関係の有無を問わない概念(副作用とは区別される) ↩︎
  2. 患者が医療者の指示に従って、自らの意思で積極的に薬物治療を受ける姿勢・行動 ↩︎
  3. へき地等において、看護師が患者の身近でオンライン診療をサポートしながら行う診療体制。医師(Doctor)が遠隔地から患者(Patient)を診療する際に、看護師(Nurse)が患者のそばで診療補助を行う形態 ↩︎

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