急性期入院医療の評価基準見直しと地域医療における役割分担の最新動向

令和7年度第2回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、急性期入院医療に関する重要な議論が行われた。平成18年の7対1入院基本料創設から約20年が経過し、急性期医療を取り巻く環境が大きく変化する中、評価基準の見直しと地域における医療機関の役割分担が喫緊の課題となっている。本記事では、急性期病床評価の経緯から現状の課題、さらにDPC制度との整合性について、最新の調査結果を基に詳細に解説する。

今回の分科会では、急性期一般入院料1の平均在院日数1要件が18日から16日へ短縮されたことや、重症度、医療・看護必要度2の判定基準が二段階評価に変更されたことなど、令和6年度改定の影響が明らかになった。また、急性期一般入院料1を算定する病院の約半数がケアミックス病院3であることや、人口規模の小さな二次医療圏4でも地域の救急搬送を支える重要な役割を果たす医療機関の存在が確認された。さらに、DPC制度における医療機関群の定義や参加基準の見直しにより、急性期入院医療の標準化と効率化が一層推進される見込みである。

目次

急性期病床評価の20年間の変遷と令和6年度改定の影響

急性期病床の評価体系は、平成12年度を境に大きく転換した。平成11年度以前は、看護師等の数に応じた「看護料」、療養環境の提供を評価する「室料・入院環境料」、医学的管理に関する「入院時医学管理料」が個別に評価されていた。平成12年度以降、これらを統合した「入院基本料」が創設され、入院医療に必要な基本的な医学管理、看護、療養環境の提供を包括的に評価する現在の体系が確立された。

平成18年に創設された7対1入院基本料は、手厚い看護配置による急性期医療の質向上を目指したものであった。創設当初44.8千床だった届出病床数は、平成26年には384.5千床まで急速に拡大した。しかし、医療費適正化の観点から、平成20年に重症度・看護必要度基準が導入され、該当患者割合10%以上という要件が設定された。その後、段階的に基準が厳格化され、平成24年には該当患者割合15%以上、平均在院日数19日から18日への短縮が実施された。

令和6年度改定では、さらなる医療機能の分化が推進された。急性期一般入院料1の平均在院日数要件が16日以内に短縮され、重症度、医療・看護必要度の判定基準が変更された。新たな判定基準では、「A得点3点以上」又は「C得点1点以上」に該当する患者割合(割合①)と、「A得点2点以上」又は「C得点1点以上」に該当する患者割合(割合②)の両方を満たすことが求められる。この二段階評価により、より精緻な患者像の把握が可能となった。

地域における急性期医療機関の機能分化と役割の明確化

急性期一般入院料1を算定する1,387病院のうち、691病院(49.8%)が地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟を併設するケアミックス病院である。一般病院とケアミックス病院では、医療提供体制に大きな違いが見られる。一般病院の年間全身麻酔手術件数の平均が1,931件であるのに対し、ケアミックス病院は880件にとどまる。救急搬送件数においても、一般病院が平均3,889件、ケアミックス病院が2,256件と約1.7倍の差がある。

二次医療圏の人口規模と救急医療体制の関係も明らかになった。人口20万人以上の二次医療圏では、急性期充実体制加算や総合入院体制加算を算定する医療機関が集中している。一方、人口20万人未満の医療圏では、救急搬送件数は比較的少ないものの、地域の救急搬送の50%以上をカバーする医療機関が存在する。これらの医療機関は、地域シェア率が高いにもかかわらず、現行の加算要件を満たせない状況にある。

新たな地域医療構想では、二次医療圏等を基礎とした構想区域ごとに確保すべき医療機関機能が明確化された。「高齢者救急・地域急性期機能」は、高齢者をはじめとした救急搬送を受け入れ、入院早期からのリハビリテーションや退院調整を行い、早期退院につなげる機能として定義された。「急性期拠点機能」は、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行う機能とされ、地域の実情を踏まえた水準設定が求められている。

急性期医療の高度化・専門化に対応した評価体系の再構築

総合入院体制加算と急性期充実体制加算の見直しにより、急性期医療の機能分化が一層明確になった。総合入院体制加算1の全身麻酔手術件数要件が年800件から2,000件に引き上げられ、加算2は1,200件、加算3は800件と階層化された。点数も加算1が260点、加算2が200点に引き上げられ、医療機能に応じたメリハリのある評価となった。

急性期充実体制加算は、悪性腫瘍手術等の実績要件に応じて2つの区分に再編された。加算1は、悪性腫瘍手術等の6項目のうち5項目以上を満たす医療機関が対象となり、7日以内440点、8-11日200点、12-14日120点の評価となった。加算2は、小児科又は産科の実績を有し、6項目のうち2項目以上を満たす医療機関が対象で、それぞれ360点、150点、90点の評価となった。新設された小児・周産期・精神科充実体制加算により、総合的な急性期医療提供体制がさらに評価されることとなった。

重症度、医療・看護必要度Ⅱの要件化も重要な変更点である。急性期一般入院料1(許可病床200床未満)、急性期一般入院料2・3(許可病床200床以上400床未満)を算定する病棟では、必要度Ⅱの使用が要件化された。必要度Ⅱは診療実績データを用いた評価であり、より客観的な重症度評価が可能となる。この変更により、測定の適正化と医療機関の負担軽減が期待される。

DPC制度の拡充と急性期入院医療の標準化推進

DPC/PDPS5は、平成15年に82の特定機能病院を対象に導入された急性期入院医療の包括払い制度である。令和6年6月時点で1,786病院・約48万床が参加し、急性期一般入院基本料等に該当する病床の約85%を占めるまでに拡大した。DPC制度は、診断群分類6ごとに設定される在院日数に応じた3段階の定額点数に、医療機関別係数7を乗じた点数を算定する仕組みである。

医療機関群の設定により、機能に応じた評価が実現されている。大学病院本院群(82病院)は、医育機能や高度先進医療の提供を担う。DPC特定病院群(178病院)は、診療密度、臨床研修医師数、医療技術の実施、補正複雑性指数の4要件全てで大学病院の最低値を満たす医療機関である。DPC標準病院群(1,526病院)は、その他の急性期医療を担う医療機関で構成される。

令和6年度改定では、DPC対象病院の基準が見直された。新たに「調査期間1月あたりのデータ数が90以上」及び「適切なDPCデータの作成に係る基準」が追加された。具体的には、部位不明・詳細不明コードの使用割合10%未満、様式間の記載矛盾1%未満、未コード化傷病名の使用割合2%未満という基準が設定された。これらの基準は令和8年度からDPC制度への参加・退出の判定に用いられる予定である。

今後の急性期入院医療の方向性と課題

急性期入院医療は大きな転換期を迎えている。急性期一般入院料1の届出病床数は近年横ばいで推移しているものの、医療機関の機能分化は着実に進んでいる。地域における役割に応じた適切な評価体系の構築が求められており、特に人口規模の小さな医療圏で地域の救急医療を支える医療機関への配慮が必要である。

DPC制度と急性期入院基本料の整合性確保も重要な課題である。DPC制度に参加していない急性期一般入院基本料届出医療機関が約1,800存在しており、これらの医療機関の多くは100床未満の小規模病院である。急性期医療の標準化と効率化を推進しつつ、地域の実情に応じた柔軟な制度設計が求められている。今後の診療報酬改定において、急性期入院医療の評価体系がどのように再構築されるか、医療機関は注視する必要がある。

  1. 入院患者の在院日数の平均値。(在院患者延数)÷{(新入院患者数)+(退院患者数)}×1/2で算出。 ↩︎
  2. 患者の医療・看護の必要量を測定する指標。A項目(モニタリング及び処置等)、B項目(患者の状況等)、C項目(手術等の医学的状況)で構成。 ↩︎
  3. 急性期病棟と回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟など、複数の機能を持つ病棟を併設する病院。 ↩︎
  4. 一般的な入院医療を提供する区域として都道府県が定める地域的単位。通常、複数の市町村を含む。 ↩︎
  5. Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment Systemの略。診断群分類に基づく1日当たり定額報酬算定制度。 ↩︎
  6. 患者の疾患、治療内容、重症度等により分類した患者群。DPCでは約4,700の診断群分類が設定されている。 ↩︎
  7. 基礎係数、機能評価係数Ⅰ、機能評価係数Ⅱ、救急補正係数、激変緩和係数の合計値。 ↩︎

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