令和7年度第1回入院・外来医療等の調査・評価分科会:8項目の包括的医療実態調査の全容と議論のポイント

令和7年4月17日、中央社会保険医療協議会1の診療報酬2調査専門組織である入院・外来医療等の調査・評価分科会が開催され、令和6年度診療報酬改定の影響を検証する8項目にわたる包括的な実態調査の詳細が審議されました。本調査は令和6年度と7年度の2か年計画の後半にあたり、約7,000施設の医療機関と2,000人の一般市民を対象に、急性期から慢性期、外来医療、さらに医療資源の少ない地域まで幅広く実態を把握します。

今回の分科会では、調査票の詳細な設問について活発な議論が行われ、委員から療養病棟の医療区分3見直しの検証方法、ポリファーマシー4対策の成果測定、ICT活用の効果検証など重要な指摘がなされました。これらの意見を踏まえた調査票の修正により、医療現場の実態をより正確に把握し、次期診療報酬改定の検討に向けた重要なエビデンスを収集することが期待されます。

目次

8項目の調査内容と重点ポイント

1. 急性期医療及び救急医療の評価見直しの影響

急性期医療調査では、重症度、医療・看護必要度5の評価項目見直しによる影響を詳細に検証します。外科系診療科別の医師配置状況と年間麻酔件数(予定手術・緊急手術別)を新たに調査項目に追加し、診療科偏在対策の基礎データを収集します。

救急医療管理加算については、鳥海委員から審査上の課題が指摘されました。加算1と2の算定実態、特に「高度な脱水」など判断基準が曖昧なケースでの算定状況を把握し、より適切な評価基準の設定に向けた検討材料を収集することが確認されました。

牧野委員の指摘により、救急外来における臨床放射線技師の夜間配置状況も調査項目に追加されることとなりました。救急医療体制の実態をより正確に把握するため、職種別の24時間体制を詳細に調査します。

2. 特定集中治療室管理料等の集中治療を行う入院料の見直しの影響

特定集中治療室管理料等については、評価体系の見直しや遠隔支援加算新設の効果を検証します。治療室における医師配置を平日・夜間・休日別に詳細に把握し、医師の属性(専門医資格、経験年数等)も含めた実態調査を実施します。

SOFAスコア6等の生理学的スコアの活用状況、患者の入退室状況を調査し、集中治療の質的向上に向けた取組の実態を明らかにします。これにより、高度急性期医療の効率的な提供体制の構築に向けた課題を抽出します。

3. 地域包括医療病棟の新設の影響

令和6年度改定で新設された地域包括医療病棟については、高齢者の急性疾患受入状況を重点的に調査します。リハビリテーション・栄養管理・口腔管理等のアウトカムを幅広くデータ収集し、新たな病棟機能の有効性を検証します。

10対1急性期一般病棟との機能分化についても詳細に分析し、地域包括医療病棟届出前の入院料からの移行パターンを把握します。病床機能の再編状況を明らかにすることで、今後の医療提供体制の方向性を示す重要なデータとなることが期待されます。

4. 地域包括ケア病棟入院料及び回復期リハビリテーション病棟入院料の実績要件等の見直しの影響

地域包括ケア病棟については、在宅医療・救急医療等の提供状況、実績要件の達成状況を詳細に調査します。初期加算の見直し効果も含め、地域における役割がどのように変化しているかを検証します。

回復期リハビリテーション病棟については、FIM7に係る研修の実施状況、リハビリテーション提供の実績、職員配置等を調査します。回復期リハビリテーションを要する状態の見直しによる影響も含め、質の向上に向けた取組を評価します。

5. 療養病棟入院基本料等の慢性期入院医療における評価の見直しの影響

療養病棟については、医療区分に係る評価体系見直しの影響を重点的に検証します。井川委員から指摘があったように、医療区分別患者割合の状況はDPCデータ8を活用して秋口に詳細な分析を行うことが事務局から説明されました。

中心静脈栄養の評価見直し、障害者施設等入院基本料の透析患者等に係る入院料見直しの影響も調査します。緩和ケア病棟入院料における緊急入院に係る評価の見直し効果も含め、慢性期医療の実態を包括的に把握します。

6. 医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進に係る評価

医師の働き方改革については、外科系診療科ごとの詳細な勤務実態を調査します。中野委員から指摘があった手術・処置の時間外加算1等の経過措置期間中の調査であることを踏まえ、経過措置終了後の影響予測も含めた分析が必要です。

タスク・シフト/シェア9の進捗は、病棟における70項目の業務について職種別実施状況を調査します。津留委員から提案された救急救命士の医師事務作業補助者としての活用実態も把握し、効果的なタスクシフトの推進に向けた課題を明らかにします。

看護補助者の確保・定着については、眞野委員の指摘により薬剤師確保の実態も含め、職種別に有料求人サービスの利用状況、研修体制、処遇改善の取組を詳細に調査します。

7. 外来医療に係る評価

外来医療調査では、生活習慣病管理料ⅠとⅡの使い分け実態を詳細に調査します。透析医療については、災害対策、シャントトラブル対応、腹膜透析(CAPD、APD、在宅血液透析)の導入状況、終末期の意思決定支援や緩和ケアの実施状況を把握します。

ポリファーマシー対策について、飯島委員(書面)から「そろそろ成果の見える化が必要」との重要な指摘がありました。院内・地域での取組状況に加え、実際の効果測定も調査項目に含めることが検討されます。

一般市民調査(F票)では、腹膜透析に関する意識調査、大病院と身近な医療機関での2人主治医制による連携治療への意識調査を実施し、患者側の視点も把握します。

8. 医療資源の少ない地域における保険医療機関の実態

医療資源の少ない地域については、回復期リハビリテーション入院医療管理料の新設効果を中心に、約10施設でヒアリング調査を実施します。小池委員から、離島、中山間地域、半島など地理的状況の違いや、能登北部のような災害復興途上の地域も考慮すべきとの指摘がありました。

情報通信機器を用いた診療(D to P with N10)の実施状況、へき地医療を担う医師・医学生養成プログラム、患者急変時の連携体制、他医療機関からの支援状況(巡回診療、医師派遣、代診医派遣)など、へき地医療の実態を包括的に把握します。

分科会での重要な議論と調査票の改善

ICT活用とポリファーマシー対策の成果測定

飯島委員の書面コメントでは、ICTによる効率化について「国全体としてどのぐらい体感できる効果になっているか」の視点が必要との重要な指摘がありました。これを受け、ICT活用の継続課題、ランニングコスト、有効性評価の設問が追加されました。

ポリファーマシー対策についても、対策実施の有無だけでなく、実際の成果を測定する必要性が強調されました。眞野委員からは、退院から次回受診までの服薬フォローアップの課題、病棟での多職種連携によるポリファーマシースクリーニングの実態把握の必要性が指摘されました。

介護保険施設との連携と協力体制

介護保険施設の協力医療機関体制について、津留委員から金銭的な合意に関する設問の表現が介護保険上デリケートであるとの指摘がありました。法令や規定に違反しない範囲での適切な表現への修正が検討されます。

井川委員からは、協力体制の分類が細かすぎるとの指摘があり、実効的なデータ収集のため選択肢の簡素化が提案されました。また、施設から金銭等を受け取る実態調査は、在宅医療提供施設に限定せず広く調査すべきとの意見も出されました。

災害・感染症対応の実態把握

災害対策について、津留委員から能登半島地震でのJMAT11等の活動実態を踏まえた詳細調査の必要性が指摘されました。林田委員からは、災害時の患者情報共有体制を調査項目に追加すべきとの提案がなされ、BCPにおける診療記録管理の実態把握が追加されることとなりました。

まとめ

令和7年度の入院・外来医療等の調査は、8項目にわたる包括的な実態調査により、診療報酬改定の影響を多角的に検証します。分科会での活発な議論により、調査票はより精緻化され、医療現場の実態を正確に把握できる内容となりました。特に、ポリファーマシー対策やICT活用の成果測定、医療資源の少ない地域の実態把握など、現在の医療政策の重要課題に焦点を当てた調査設計となっています。調査結果は令和7年8月以降に速報として公表され、今後の診療報酬改定検討の基礎資料として活用される予定です。

  1. 厚生労働大臣の諮問機関で、診療報酬、保険医療機関及び保険医療養担当規則、訪問看護療養費等に関する事項を審議・答申する組織 ↩︎
  2. 保険医療機関等が行う診療行為に対して保険者から支払われる報酬 ↩︎
  3. 療養病棟入院基本料における患者分類。医療区分1(軽度)、2(中度)、3(重度)に分類 ↩︎
  4. 多剤併用のこと。一般的に5-6種類以上の薬剤を併用している状態を指し、有害事象のリスクが増加 ↩︎
  5. 入院患者の医療・看護の必要量を測定し、適切な看護配置を評価するための指標 ↩︎
  6. 臓器障害の程度を評価する重症度スコアで、6つの臓器系統の機能を0-4点で評価 ↩︎
  7. 機能的自立度評価表。日常生活動作の自立度を18項目126点満点で評価する国際的な評価指標 ↩︎
  8. Diagnosis Procedure Combination(診断群分類)に基づく包括評価制度で使用される診療データ ↩︎
  9. 医師の業務の一部を他の医療職種に移管(シフト)または共同実施(シェア)すること ↩︎
  10. Doctor to Patient with Nurseの略。へき地等で看護師が患者のそばでオンライン診療をサポートする診療形態 ↩︎
  11. 日本医師会が組織する災害医療チーム ↩︎

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です